突如始まる『その後の不自由』読書会~被害者であり加害者であり~

注意:暴力に関する話が出てきます。

 

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『その後の不自由』の面白さって?

Aska 合理的配慮トークの続きをしようってことで集まったんだけど、前回のトークで満足しちゃったところがあって。全てを話し切ったわけじゃないけど…。

文鳥 うん。

Aska じゃあ、別の話しようかっていうことで、『その後の不自由』についてちょっと喋ってみるかってことになり録音を始めたところだよね。ちなみにどれくらい読んだ?

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文鳥 Askaさんのおうちで、そうそう、あそこが一番読めたわね。今、福岡を離れて東京に来たんですけど。で、入手はしたけど読めてないし…。自分がこの本について何を面白く思ってるのかみたいなのがあまりうまく言葉にできないかなって。

Aska なるほどね。いま手元に本がないからツイートメモを見つつにこれから話すけど。何が面白いかについては、一番は具体的なことかなあ。当事者研究的なところだからっていうのもあると思うけど、障害や病気についての本をめくったときに「こういう症状があります」っていうのは確かに書いてあるんだけど、そこに具体性がないっていうか、そんな感じがすごくしていて。

文鳥 ふんふん。

Aska もちろんそれは個人差があることだから、できる限りみんなの共通点として書けるものってなるとそうなっちゃうのかなって気もするんだけど。でも、それって大して役に立たないというか、ピンとこないところがあるんだよね。この本は、自分のことから出発して、しかも色んな人が知恵を持ち寄って話し合った成果でもあるわけだし、色んな人と話し合ってきた人が書いてる本でもあると思うから、そういう具体性に惹かれたかな。

文鳥 そうだよね。具体的って言っても、ホント個別具体的だよね。例とかがさ。そこはすごく私も印象残ってた。

Aska うんうん。

文鳥 昨日さ、全然関係ないけどさ、Askaさんも参加していた森崎和江の「まっくら」の読書会で、「無名通信」っていう…あれなんていうんだろう?同人誌じゃないよね?

Aska 同人誌じゃない?

文鳥 なんだろうね。それで、集合的に知を立ち上げていくみたいなのがあって印象に残ったというか、それを思い出したかな。

Aska なるほどね。その話で言うんだったらさ、最初らへんで引用されてた、女性の炭鉱労働者の話を聞きに行ったんだけど、夫が帰ってきたら一般論というか抽象的な議論に回収されちゃって「沈黙」みたいな話。

文鳥 うんうんうん。あそこすごく私も面白いと思った。分かるんだけど、どういうことなんだろうっていう。

Aska そうそう。だし、なんかそういうことあるなと思った。あれ、何言おうとしたんだっけ、忘れちゃった(笑)

文鳥 忘れちゃえ忘れちゃえ。

Aska とりあえず現時点でこの話は行き止まり感がある(笑)

文鳥 おっけー。

 

「被害者であると同時に加害者である」

Aska 「ここが印象に残ってる」とかある?

文鳥 後ろの方に大嶋栄子さんが書いた、「生き延びるための10のキーワード」っていうのがあって、そこで「被害者であると同時に加害者である」ということについて書かれているところがあって。あと、時間の軸について書かれたところもあったな。

Aska 時間の軸ってなんだっけ?

文鳥 依存症というか酷い暴力被害に遭ったの人にとっての時間の感じられ方について書いてあって…なんだろう。積み重なっていない、繋がっていないっていうのかな。援助者の立場から書かれたものなんだけど、女性たちの……うまく言えないよお。

Aska 何の話だろう。とりあえず「被害者であり加害者である」の話する?

文鳥 うん。これはまったく自分の個人的な経験なんだけど、めちゃくちゃ傷ついたときに家族の人に暴力振るったことがあって、その体験をどう受容すればいいのかってところですごく持て余してるというか。向き合うのが困難になっていたから、こういう風に書かれているのは、私とは状況が違う人たちのことなんだけど、だけど書かれてるのは初めて見たというのかな。興味深かった。

Aska たしかに。自分もさ、個人的な話になるけど、あんまりよくない状況で、より弱い立場の人に八つ当たりしてたみたいなところあったなって思って。どう受容していいかというか、どうしたらというか、そんなことを自分も思い出してた。だからさ、199~200ページに、自分のツイートメモなんだけど、「家の中で暴力を受けていたとき、より弱い立場にある兄弟をいじめるとか、『いつ刺してやろうか』といった秘められた攻撃性が加害者に対してひっそり向けられるなど、被害体験だけでなく、加害体験をもっていることがある。」「『ですから、”健全な市民”から「暴力反対!」と言われると、彼らは自分の中の加害者性を含めて、自分自身を否定しなくてはいけなくなります。」「大嶋さんは「暴力反対!」という言葉にうなずきつつも、同時にそこから”はずれてしまう”人のことを思う」って言ってるみたいなところがあって、あ~このニュアンス!って思って読んでた。

文鳥 うーん。

Aska 「暴力いけない」って言われた時に戸惑う感じ。暴力いけないのは確かにそうなんだけど…。

文鳥 そうだよね。特にさ、フェミニズムとかさ、ジェンダーとかセクシュアリティにまつわる暴力のこととか、差別のこととか抑圧のこととか考えるときに、差別ってすごく痛い場合があるじゃない?痛いというかしんどいっていうのかな?

Aska うん。

 

加害経験について語ることの難しさ

文鳥 そこに対する怒りみたいなのが私の中にはあって。「許せない。なんであんな暴力的なんだろう、許せない」みたいな。そういう憤りもありつつ、その一方で自分の加害体験みたいなことが…加害に比べれば被害体験はうまく語れる…どちらともしんどいんだけどね。加害はホント誰に向けて、どこに向かって語ればいいんだろうみたいな。話聞いてる人が嫌な気分になるのも避けたいし、すごい最低な暴力を犯したことってコミュニティから放逐されるのも嫌って思ってるんだろうね。

Aska そこまで言語化できてるのすごい。そうね。全然まだ何も読み始めたりできてないんだけど、加害者教育とかそんな感じのやつ気になってる。なんだっけ、「なんとかサークル」みたいな映画なかったっけ?

文鳥 「プリズン・サークル」だったっけ?

prison-circle.com

Aska そうそう。それ系のやつなんだと思うけど。でもなんかさ、加害したことについてさ、どうそれを自分の中で扱うというか、一旦ちゃんと自分の中で消化したうえで何をするか考えたほうがいいんだと思うんだけど…。自分の中とか相談できる人がいるんだったら相談した方がいいと思うんだけど。なんかどうしたらいいのかわかんない。

文鳥 そうだね。

Aska こんなこと言ってもいいのかわかんないけど、自分の加害したことを無視したまんま過ごすっていうのも歪な感じがするっていうか。正義にもとるだけじゃなくて、自分の暮らしとしても健康上よろしくない気がするし。どうしたらいいんだろうみたいな。

文鳥 うーん、そうだね。

Aska それは気になってるね。

 

加害体験と被害体験を別々のこととしてではなく語ること

文鳥 いやあ、うーん、そうだよね。ここを向き合わずして、自分のジェンダーとかセクシュアリティとかを理解するのも不可能…(自分の)フェミニズムの受容の仕方とかすごく結びついてるんだよね。

Aska えー、気になる。

文鳥 今、zineでそのことについて書いてみようとしてるな。

Aska 読みたい!

文鳥 何言いたいのか分からなくなってきて、とりあえず加害体験を、忘れてると思うんだけど書いてるかな。

Aska なんかさ、そういうさ、差別とか暴力のことを考えるときにさ、被害者と加害者みたいな、マジョリティとマイノリティとかさ、そういう構図みたいなのがあるけどさ、文鳥さんがさっき言ってた感じでさ、すごい絡み合ってる感じがして…。うーん、なんていうんだろうね。加害者としてしか存在しませんっていう人も被害者としてしか存在しませんって人もなかなかいないっていうか。でも、いないはずだけど、そういう絡み合ってるのが前提で話が進みづらいっていうか、そんな感じするよね。

文鳥 うんうん、すごいする。

Aska そもそも実際の状況と解離した議論したってしょうがないしさ。

 

加害について語ることの難しさ、求められる慎重さ

文鳥 そうだよね。でも、話すのすごく難しいよね。特に加害については。被害の大きさを軽く見積もることなく加害について加害した人がどうやって加害しない方向に行けるかを語るのって難しいよね。綱渡りみたいに感じて、気を抜いたらすぐぽろっと落ちちゃいそうな。そんな感じの。難しくないかな。何やればいいんだろ。

Aska そうね。うーん。少なくとも一旦は、閉鎖的なところで喋ったりとか話し合ったりとかする場が必要だろうなって気はする。オープンな場所だったら綱渡りじゃないけど、それ以上に慎重にならないといけないけど。

文鳥 そうだよね。なるほど。

Aska やっぱさ、失敗が許されないのってしんどいじゃん。

文鳥 そうなんですよね~、ホントに。

Aska 綱渡りで「ちょっとでも傾いたら終わりです」の状況で「綱渡ってください」って言われても綱渡れないしさ。強力な自制心が働いてめちゃくちゃ無難っていうか、そんなことしか言えないっていうか。閉鎖的な場所で喋るのは必要なんだろうなって気はする。

文鳥 そうだよね。

Aska 相手がいる話だしね。

 

暴力に加担してしまう愚かさ、弱さとの向き合い方

文鳥 そうなんだよね。今さ、『ぼそぼそ声のフェミニズム』の「愚かさ弱さの尊重」っていうところを思い出して。そこではなんというか、能力があるとか賢いフェミニズムを批判していて。別に弱くても能力がなくても勤勉ではなくてもバカにするなっていうそういう主張だったと思うんだけど…すごくうまく言えないな。

sakuhinsha.com

Aska いいよいいよ。

文鳥 それで、愚かさ弱さっていうのは色んな風に解釈出来て、私が考えているのは暴力に加担してしまうような愚かさ弱さとどう向き合っていけばいいんだろうっていうのを考えているんだよね。

Aska 気になる。

文鳥 フェミニズムの歴史とか振り返ってみてもさ、割とさ、暴力に加担してたことはあると思うし、そういうのとどう向き合えばいいんだろうな。植民地支配に加担していたりとか、セックスワーク差別とか、そういう今の時代から見たら悪いんじゃないかっていう事例があると思うけど、そういうのとどう向き合っていけばいいんだろう。わかんない、うまく言えてないな。

Aska それはきっとさ、向き合い方として、加害者だったフェミニズムと切り分けて、ここは悪かったですごめんなさい、とは違うんだろうなっていう気がするってこと?

文鳥 うーん。

Aska ウーマンリブとかの語りでこういうこと語ってる人いそう。

文鳥 悪かろうとよかろうとすべて出すみたいな感じあるよね。

Aska しどろもどろになりつつ、結論もいまいち出てないけどそれでも語ってる人いそうだな。読みたいね。

文鳥 誰がいるんだろうね。田中美津しか知らないし、田中美津もちゃんと読んでるわけじゃない。

Aska そうね。ずっと気になってるかもな、被害者と加害者の軸みたいな。それをくっきり分けようとするとさ、なんだろう。被害者ポジションに立ったら絶対言うこと聞いてくれると勘違いしてる人が被害者ポジション争いしてることが起きてるなって。もちろん被害者の声は尊重されるべきだけど、絶対に言うとおりにしろってわけじゃないじゃん?被害者ポジション争いして、自分は最強被害者だから言う通りにしろって言ってる人が少なからずいて。それも被害者と加害者をくっきり分けようとするところからきてるんだろうなって。

文鳥 なるほど。

Aska 加害にも加担している自分込みで、どう語っていいか分からないからそうなっちゃってるんじゃないかなって。

文鳥 なるほど、自分の加害の語り方が分からないみたいな。

Aska うん。加害者は完全に黙らなくちゃいけないじゃないけど。なんて言うんだろう。被害者の声に耳は傾ける必要はあるけど、加害者完全沈黙ノータッチみたいな。それで事がよくなるかっていうとわかんないし。どういう語りか、どういう場を設定するのかは重要だと思うけど…。うーん。気になりトピックだな。全然うまく言えない。

 

加害について語るために参照できそうな言葉

文鳥 うーん、参照できる言葉があまりない感じかな。

Aska たしかに。

文鳥 フェミニストカウンセラーの信田さよ子さんが、最近のニュースでなんか言ってたな。この人とか一冊も読んだことないけど、書いてらっしゃいそうやなって思ったね。加害者のことにも、フェミニズムの蓄積とか参照しながら語ってるような人。

DVから解放された新しい家族像を求めて~「加害者」とはなにか? | カルチャー | ELLE [エル デジタル]

Aska その記事読んだかも!「加害者と関わんなくちゃ状況変わんねーわって思った」みたいなこと言ってたな。

 

Transformative Justice

文鳥 うんうん。あと、よく知らないんだけどさ、transformative justiceっていうのがあって。アメリカの社会運動の文脈…全然知らないな。この前さ、クィアと障害っていうのをキーワードに色々スピーチとか書き物してる人を翻訳したいですってツイートがあったじゃん?

Aska うんうん。

文鳥 そこで訳されてる一人なんだけど、ミア・ミンガスっていう人がいて。その人がtransformative justiceをやってるらしくて、そんなのあるんだって思ったんだけど。どういうものかっていうと、警察とかに頼らないで、加害者を自分たちのコミュニティの外に追いやらないで、自分たちの中で暴力に対処しようとする、暴力の少ないコミュニティを作っていく運動のことで、クィアとかフェミニズムの人たちがやってて。まだちょっとしか分かんないんだけど、気になり。

qdistrans.blogspot.com

Aska めっちゃ気になるわ。

文鳥 あんまり書いてるものが見つからなくてさ。

Aska (ググる) 動画とかあるけど、英語かあ。

文鳥 一応英語のスクリプトもついてるけど。…このBarnard Center for Research on Womenは結構有名どころらしいんだけど。そこが、transformative justiceについて説明したりしてる。ちょっと見たりもしてたし、面白そうだなって思って誰か紹介してくれないだろうかと(笑)

www.youtube.com

Aska 文鳥さん、紹介してよ~!

文鳥 できるかなあ。一応本とか図書館に入れたりしたんだけど読めないし…。読めないってのは気持ちが弱ってるからだと思うけど。そうだよね、あの人に伝えようって思ったら読む気も出て来るよね。今度会う時までにちょっと調べてこようかな。

Aska たのしみ!同じ団体で、修復的司法が説明されてる動画があるっぽいけど、気になる!

文鳥 気になるよね。豊富なリサーチというかリソースがあるんだなっていうのがよくわかる。

Aska たしかにね。

文鳥 accountabilityっていうよくわからんキーワードがあるみたいなんだけど。加害した人をどんなふうに支援するべきかっていうのを。

www.youtube.com

Aska えー、めっちゃ気になる。(動画の)スクリプトってまとめて表示されないかな。

文鳥 そうだよね。そしたら、DeepLとかに一気にかけられたりするもんね。

 

わちゃわちゃ

Aska いやあ、紹介してくれてありがとう!

文鳥 いやいや、私何も知らないからさ、紹介していいものかって思ったけれど。(笑)

Aska これはあれだね。腐葉土*1の時に話せたらいいね。調べるには直近すぎるかなって気もするけど。

文鳥 そうだね。腐葉土会ってオープンすぎんって感じもするっちゃけど。

Aska たしかに。

文鳥 私、まだ聞いてる人がいるかもしれないっていうところの意味を掴みかねてる。

Aska まあ無料で提供してるものだし、あんまり肩ひじ張らなくてもいい気がする。でも確かにこれくらいの規模感がいいかもね。

文鳥 うんうん。今コカ・コーラ飲んでた?

Aska そう。今ハマっててさ、一日一本飲んでる(笑)

文鳥 まあいいんじゃない?(笑) (こっちに)コーラ売ってるところあるかな?あるか。自販機あるはずだし。

Aska この話は引き続きやっていこうぜって言うことで、『その後の不自由』に戻る?

文鳥 そうだね。

(話は続く…今回録音分はこれ以上公開しません!)

 

*1:腐葉土を目指すための定例会(かきまぜ中)」の略。ツイキャスでお喋り予定。